食生活の崩壊

「食生活の乱れ」が指摘されている。
【日本の食と農−危機の本質】/神門善久/NTT出版の中で、筆者は指摘する。

消費者自身が何をしてきたかを観察してみよう。現在の日本で最大の食の問題は、
食生活の乱れである。BSEや遺伝子組み換えなどが仰々しく報道されるがまだ科学
的にも未解明の部分が多いし、健康危害の報告例も少ない。それに較べると、食
生活の乱れは広範に発生していて、しかも確実に心身の健康を侵す。
(外食や中食の増加、ホンモノ志向と称してもてはやされるデパ地下地下食品、
レトルト食品や冷凍食品の氾濫を指摘した後...)
ほんとうに「食の安全・安心」や子供の健康をいうのであれば、消費者(大人)
が自らで食材を吟味し、調理方法を工夫してこそである。

昨今のギョウザ事件の報道を見ていると、「食生活の乱れ」どころか「食生活の
崩壊」とさえ感ずる。自分の胃袋を満たす作業さえ、あたかも機械化された工場
生産の一工程に変えてしまい、自分はただ最終工程で、口をあけて待っているだけ。
包装紙の謳い文句を真に受けて、それで健康や栄養に「気を配っている」などと
安易な自己満足に耽り、一旦、事件や事故が起これば、責任を全て他人に押し付け、
犯人探しに狂奔する。こんな「食生活のあり方」には、どこにも陥穽が待ち受けている。

東京農業大学小泉武夫氏は、01年に【食の堕落と日本人】/東洋経済新報社という
本を書いて、食の乱れは社会生活の乱れ、ひいては民族の存亡に係ると警鐘を鳴らし
ている。

いつから、日本の家庭の食生活は手抜き料理に溺れ、出来合いの加工食品やまがい物
食品・冷凍食品に占領されてしまったのか?

統計データ・ポータルサイト参照)の「家計」の中の「家計調査」では、データ
はやや古いが、細目分類調査が分かる。

この家計調査によると、平成16年度の月平均の全都市勤労者世帯の
消費支出総額は30.5万円、その内食料費は7.2万円に相当する。この内、どの程度
を加工食品・冷凍食品、或いは外食産業に費やしているか?
一口に「加工食品」といっても、様々なレベルのものがあり、納豆・豆腐なども
加工品なら、最近急増している冷凍野菜・冷凍食品も加工品。だから、単に加工品
の割合だけから家庭の食卓の姿が変わってしまったかどうか、もち論、正確には分
からない。こういった留保はあるが、ともかく加工品の類の内訳を見てみよう。
加工品12967円(調理済食品8506、)、菓子類5244円、一般外食12774円(学校給食
を除く)、以上の合計が30985円(43%)、これに飲料・酒類7250円を加えると
食料費の53%を占めている。一方、いわゆる主食の穀類は7072円、生鮮野菜5330円
を占めるに過ぎない。一般外食の何割かは穀類が占めているから、これより多少は
多いとしても高が知れている。

これをマクロ的に見るには、二通りの統計調査がある。
一つは、農水省データを元にしたもので、「わが国食料市場をめぐる環境変化」
(04/09、pdf、参照)の中の二頁目「食と生産・消費のフローチャート」(2000)
で、飲食料最終消費額80兆円に対して外食産業23.7兆円で、29.6%を占めている。
二つ目は、日本フードサービスの「外食産業データハンドブック」(参照)で、

外食産業の市場規模は75年の8.6兆円から91年27兆円まで急増、その後は漸増して
97年に29兆円とピークを打った後、2000年は27兆円、最近は24兆円規模で推移して
いる。同データに、食の外部化率=(広義の外食産業市場規模)÷(年間の食料・
食品支出額)の統計が出ている(1975-05)。
75年の28.5%から90年にかけて41.2%に急増した後、41、2%台で推移している。
2000年の外食市場規模27兆円と外部化率41%から逆算すると00年の食料・食品支出
総額は約66兆円、農水省データとの差額14兆円は何なのか分からない。

また、都市勤労者世帯の食料支出のうち一般外食費の割合が二割以下なのに対して、
マクロ的には外食産業の市場規模が3−4割以上を占めているのは何故なのか?
飲料・酒類の扱い方、或いは会社などの交際費的な支出などが考えられるが、多す
ぎるのでは?

ともあれ、1975年から90年頃にかけて、すなわち経済のバブル化に伴って、日本人
の摂食パターンが急速に変わり(正確には家計調査を検討しなければならない)、
かつバブル崩壊後も元に戻らなかったことが推測される。

一方、加工食品への依存度が長期的にどう変わって来たか、品目別家計調査の昔の
統計が見当たらないので分からない。ただ加工食品の中でも冷凍食品の割合が急増
しているので、フライなどの揚げ物類や調理済食品の割合が増加していることが伺
われる。
日本冷凍食品協会の「冷凍食品統計データ」(参照)を見ると、
冷凍食品の消費量は、1975年に38万トン、一人当たり年間消費量は3.4キロ、この内
輸入量の占める割合は6.6%だった。これが1990年には133万トン、10.8キロ、23%、
2005年には262万トン、20.5キロ、41%に増加した。
しかも輸入冷凍食品うち中国の占める割合は、1997年には45.6%だったが、06年に
は63.6%が中国産だ。中国産冷凍食品の品物をランダムに拾ってみると、えびフライ、
いかフライ、いかリングフライ、かきフライ、あじフライ、白身魚フライ、トンカツ、
チキンカツ、棒ヒレカツ、鶏唐揚、いか唐揚、かれい唐揚、かき揚、れんこん挟み揚、
ハンバーグ、春巻、たこ焼、お好み焼、練製品、焼鳥、北京ダック、カップ惣菜、
魚加工品、飲茶、ロールキャベツ、角煮、大肉包、小松菜炒め煮、いんげん肉巻、
きんちゃく、湯葉、中華丼の具、さば塩焼、さば照焼、中華串、豚ごぼう焼、豚すき
丼の具、飲茶類、タルト、まんじゅう...etc。

また国内生産量だけで見ると、業務用冷凍食品は97年をピークに減少しているが、
家庭用冷凍食品は一貫して増加し続けている。これは業務用冷凍食品そのものが頭打
ちなのか、海外に生産拠点を移しているためなのか分からないが、何れにせよ家庭の
料理離れ・手抜き料理は歴然としている。